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【ロートレックと華やぐ時代】三菱一号美術館にて開催中✨

【ロートレックと華やぐ時代】

アイコン画像:版権 / Alex Postovski

【時代の夜を描くロートレック】

夜の闇には表情があります。

影が支配する世界では
逆に光の情緒が豊かになります。

繁華街、昼はまったく退屈な顔しか
見せない街も夜の闇が降りると
途端に輝き出すのです。

ネオンの光に照らされた人々の
顔はどれも影が深く、

何か少しだけ狂気じみた企みを
持っているかのようです。

多くの人が知らず知らずのうちに、
あるいは深く自覚しながら、
闇に浮かぶ光に抗い難く
誘惑されるでしょう。

およそ100年ほど前のパリには
すでにそうした夜の街が
できあがっていました。

煌々と照らされた街の一角に
酒場やダンスホールがあり、
踊り子や娼婦、

そして
大勢の客たちで賑わっていたのです。

時代は19世紀、
私たちがよく知っている2度の
大きな世界大戦へと滑り落ちて行く
奈落を控えながら、文化や芸術、

わけてもヨーロッパのそれは
すっかり熟しきっている、
そんな様相でした。

特に19世紀末から20世紀初頭は
「ベル・エポック(良き時代)」と呼ばれ、
当時文化の中心であったパリは
大きな繁栄に包まれた時代でもありました。

今回紹介するトゥールーズ・ロートレックは、
そうした爛熟の時代をわずか36年という
短い生涯で駆け抜けた作家です。

ロートレックは南仏のアルビという
古い街で生まれました。

裕福な家庭で両親の愛情をたっぷりと
注がれて育ちますが、少年ロートレックは
両脚の大怪我にみまわれてしまい、

それを境に彼の人生は次第に
変調をきたしはじめます。

両脚の怪我は彼の足の成長を止めてしまい、
ロートレックは身体障害者となりました。

ですが両脚以外は成長を続けるので
彼は身長152cmほどの不自然に
足の短い男になってしまいます。

いっぽうで怪我と前後してはじめた
絵画の腕前はたちまち上達。

パリと故郷とを往復しつつ
制作を続けるようになりました。

パリで彼はモンマルトルという
当時多くの芸術家が集まる地区を
拠点に活動していました。

身体障害者に対する差別は
現在とは比べものにならなかったでしょう。

怪我によって極端に足の短い奇妙な
風貌だった彼は鬱屈した
青春時代を過ごします。

やがて夜の街に入り浸って
そこを行き交う踊り子や娼婦といった
夜の女たちに社会のアウトサイダーとして
共感を覚え、彼女たちをモデルに
絵を描きはじめます。

【ムーラン・ルージュという世界】

ロートレックは数多くのキャバレーの中でも
「ムーラン・ルージュ」という
有名なキャバレーに足繁く通っていました。

彼が親近感を抱いていた夜の女性たちと
そこに関わる情景をテーマに描いた
ポスターなどの仕事は、

ポスターをはじめグラフィック・アートと
呼ばれる作品を芸術の域にまで高めたものとして
今も知られています。

ちなみにムーラン・ルージュは
今もパリで営業しています。

美術はそれまでキリスト教であったり
「◯◯主義」といった思想の
バックボーンがあって
成り立つものが中心でした。

しかし19世紀末にさしかかると
美術は次第に産業や商業と
これまでよりも強く結びつき
はじめたように感じます。

宗教を土台とした崇高な目的ではなく、
もっと卑近に暮らしや風俗
といった部分に視点を移しながら、

いわば人間のより人間くさい姿に
美しさと新しさを見出そうとしたのでは
ないでしょうか。

もっとも「人間くさい」とはいっても
それは夜の歓楽街という日常の中の
非日常に生きる人の姿でした。

ロートレック馴染みの
ムーラン・ルージュをはじめ
モンマルトル界隈のキャバレーには
実にさまざまな人たちが出入りしていました。

たとえば
「座る女道化師ーシャ=ユ=カオ嬢」と呼ばれる
ロートレックの作品があります。

演技の後なのかあるいは
これから出番を待っているのか、

店内で道化の衣装に身を包んだ女性が
大きく足を開いて座っている姿が
描かれています。

そして彼女の後ろには
派手な衣装をまとった女性の腰に
手をまわす男性の姿。

前景の大股で座る女性は
キャバレー常連のロートレックと
親しい人気の女道化師なのですが、

その表情はどこか悲哀に
満ちているようにも感じます。

「わたしと後ろのふたりの客を
ご覧なさいよ。わたしたちは皆、
こんな滑稽な世界に生きているのよ」

道化の彼女がこちらの心に
語りかけてくる、

そんな印象を受けます。

いつの時代もきらびやかな
夜の街の裏側には心も体も疲れ切って
何かを諦めた人々の寂しそうな表情が
隠されているのではないでしょうか。

こうした夜の真実とでもいうべき
二面性にロートレックは
注目していたのかもしれません。

輝く夜の街の底を流れる夢想と倦怠。
障害者として父に疎まれ、
差別や劣等感を感じながら制作に
没頭するロートレックの
来歴とどこか重なります。

また筆者がひとつ注目したいのが
ロートレックが作品で描き出す
線の秀逸さです。

ダンスホールに降り注ぐ強い照明の光、
それに応じてくっきり浮かび上がる
人々のシルエット、照らされて
ギラギラ輝く白い肌の女性の蠱惑的な姿。

しかしそれでいて肉体のたるんだ
柔らかさを感じさせる崩れかけた
体のライン。

いっぽう男性はというと
だらしなく肉欲に惚け、
虚飾にまみれた表情が残酷に
描き出されているように見えます。

夜の街、キャバレーの情景は
非日常でこそあれ幻想的なものでは
ありませんでした。

ロートレックにとっては
むしろそこは現実以上に
現実的で強い質感を備えた欲望の
世界だったのかもしれません。

【三菱一号美術館】

東京駅のほど近くに
三菱一号美術館があります。

明治時代に
洋風貸事務所建築として知られ、
昭和43年に取り壊された建物を
いま一度当時の姿を再現すべく
建てられました。

いまは美術館として
供されている建物です。

昭和の時代に取り壊される前の
旧い三菱一号館は、明治27年(1894年)に
イギリス人建築家によって建てられたものでした。

煉瓦造りの丸の内では
最初の洋風建築で、この三菱一号館を
皮切りに界隈には洋風建築が
林立することになります。

ですから当時の丸の内は
日本にいながらにしてヨーロッパの
雰囲気を感じられる特徴的な場所
だったのかもしれません。

2017年10月18日から同美術館にて

「パリ グラフィック展 ロートレックと
アートになった版画・ポスター展」

が開かれています。

いま現在、三菱一号美術館が建つ場所は
明治に建てられたそれとは
正確に同じ場所ではありません。

ですが、再建にあたって可能な限り
当時の建材を用いつつ蘇った貴重な
建築です。

ロートレックはまさにこの三菱一号館が
初めて建てられた時代でもある
19世紀末のパリで活躍しました。

ヨーロッパの空気を感じながら
ロートレックの作品を堪能しては
いかがでしょうか。

また三菱一号美術館では
祝日を除く金曜と
11月8日、12月13日、1月4日、1月5日は
21時まで開館しています。

夜に味わうロートレック、格別かと思います。

展示されるのは
ロートレックだけではありません。

木版画の白と黒の大胆な表現が
特徴のフェリックス・ヴァロットン。

現代のグラフィックデザインでも
通用するであろう洗練された構図に
驚かされるかもしれません。

純粋な宗教画の趣が
味わい深いモーリス・ドニ。

敬虔なカトリック教徒であった
ドニの人間性がにじみ出るような
柔らかく優美な作品を残しました。

ロートレックとはまた違った視点から
都市生活とそこに暮らす人々の機微に
迫ったピエール・ボナール。

彼もまたグラフィック・アートに
偉大な足跡を残しました。

特に有名な作品に
《「フランス=シャンパン」のためのポスター》
があります。

商品やサービスの情報を人々に届ける
ポスター芸術、グラフィック・アート。

ロートレックをはじめ多くの
才能が開花した時代の空気を
三菱一号美術館で感じてみては
いかがでしょうか。

また11月9日から翌年2018年2月18日まで
「丸の内イルミネーション2017」として
美術館周辺が明るく輝き出します。

丸の内エリアの冬の風物詩でもある
恒例のイベント、ブランドショップが
立ち並ぶ丸の内仲通りの並木道が
シャンパンゴールドのLEDに彩られます。

19世紀を彷彿とさせる
アールヌーボー調の高さ6mの
ゲートも登場します。

夜闇に華やぐ光に包まれて、
ロートレックやベルエポックの
画家たちが暮らし描いた世界を
ぜひ追体験してみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

 

 

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レイン

レイン

若いころは美術教育を真面目に学ばずに哲学や文学に溺れていました。今はグラフィックデザイナーとして糊口をしのぎながら頭に浮かんだことを書いています。

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